バイト辞めました

 2015年12月25日、花金のクリスマス、わたしはアルバイトの最終出勤日だった。

 本当はもっと前に退職する予定だったのに、クリスマスに出勤できる人がいなかったから延期になったためだった。

 

 およそ3年前の2013年1月28日、以前から務めていた元彼の紹介で、某社の某部署にアルバイトとして入社した。夕方から未明まで、勤務内容は社員補助。入館証の顔写真には茶髪にボブカットの不機嫌そうな女。

 その頃バイトリーダーを務めていた元彼の研修が異常に厳しく、一日目で挫けそうになった。帰りの相乗りタクシーでは自宅までの道案内ができずに同乗者に怒られたこともあった。

 新聞を大量に触るせいで手が真っ黒になるし、忙しいとみんなピリピリして怖いし、常にピーヒョロ鳴っているし、他部署のバイトはやたらガラが悪いし、何より社員食堂がまずかった。

 乳腺に膿が溜まったり、食道炎になって胃カメラを飲んだりしているうちにあっという間に月日は過ぎて、気がついたら3年近くも勤続していた。今まで長く続いたバイトなんてなくて、大体面倒になって飛んだりしていたのに、このバイトだけはちゃんとやめることができた。

 

 でも本当はこんな時期に辞めるつもりじゃなかった。

 本当なら、「就職が決まりました」っていう報告をして、胸を張って退職するつもりだった。部長も、お前が辞めるときは盛大に祝わないとなっておっしゃってくださっていたのだ。

 わたしは本当にダメなやつで、体調を崩したり精神がおかしくなったり失踪したりしてたくさん迷惑をかけてしまった。業務中に寝ていたこともあったし、ブ○ンの飲み過ぎで朦朧としていたときもあった。それでもお給料をもらっていたのだ。

 年月を重ねていくうちに身体も脳みそもどんどんダメになって、とうとう逃げるように辞めることになった。社員さんに、辞めることを自分から伝えることができなかった。理由を話せなかったのだ。もうすべてがダメなので辞めますと言えなかった。同世代のバイトの子らが、就職を期に辞めますと、大企業の内定を背負って宣言していくのを見て、わたしはひたすら萎縮するしかなかった。将来を聞かれるのが怖くてしかたなかった。

 入社した時の元長と、現部長から連名で退職祝いをいただいた。こんなにたくさん良くしてもらったのに、わたしはずっと何もできないで、本当にダメだった。

 辞めてやるってずっと思っていたのに、いざ辞めるとなると、悲しくて寂しくて涙が出た。今日の出勤も、行きたくないなあーなんて言いながら背を丸めて、二日酔いのままなんとか乗り切ったくらいだったのに。

 

 今日の勤務はとっても静かで、アルバイトの引き継ぎノートを読み返したり、私物の整理をして過ごした。この日にわたしは人んちで飲み過ぎてゲロ吐いたんだなとか思い返していた。部長が変わったり元彼が辞めたり、新しいバイトが入っては去り、いろいろなことが少しずつ変わっていって、わたしだけずっと後ずさっている。

 

 あそこで働いていたのはわたしのアイデンティティだったのかもしれない。「事務というか庶務というか、まあ社員さんのパシリみたいな仕事ですね笑」と言うことはもうないのだ。

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