読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

突然四国に行った話

 父が香港で働いていて、ときたま日本へかえってくる。今秋も帰ってくるということで、私の住む大阪へも遊びに来るよう要請していた。ただ父の休みもそう長くとれたわけではなく、1日のみ大阪へ来て、そのまま関西空港から香港へ戻るという通達があった。

 しかし直前になって2日間遊びに来るらしいということになった。日曜日と、月曜日の丸二日、父を独占することができることになった。翌火曜日の便で香港へ戻るという。そこで突然、わたしの運転のサポートをしてもらうという話が巨大化し、「2日間使って四国へ行こう」ということになった。全くの無計画で、母が松山に宿を取ってくれて、父はしまなみ海道を通りたいということもあり、まあまあ骨子はできつつもほとんどノープラン。

 

 日曜日の朝はバイトが入っていた(これでも本来昼間勤務のところを無理言って朝にしてもらったのだ)ので、レンタカーでバイト先まで迎えに来てもらい、バイトを上がるや否やそのまま出発した。教習所を卒業してから2か月ほど経っており運転方法に自信がなかったが、車(トヨタヴィッツ)に持参した初心者マークを貼りつけいざ出発。

 大阪から四国に入るには様々なルートがあるが、兵庫・淡路島を通るルートを選択した。なぜなら明石大橋が好きだからだ。あの巨大かつ整然とした橋を真っ直ぐ渡ると絵も言えぬ快感を覚える。まずナビを淡路島に設定した。

 バイト先からICは目と鼻の先なのであまり市街地を通らぬまま阪神高速に乗ってしまったが、気づくと車が左側に寄っていく。かつての教官に「いがんでる、いがんでる」と怒られたことをよく思い出す。“いがむ”は大阪弁らしい。歪むってことだ。左に歪んでしまう癖がある。

 びゅんびゅん高速を飛ばし、いがみながらもなんとか淡路島に到着。観覧車のあるSAで飲み物を買い、再出発。

 淡路島を縦断すると鳴門海峡を渡ってすぐ徳島なのだが、いかんせん淡路島が広い。標識やナビを見る余裕がなく、助手席の父に「もう徳島?」「もう徳島?」としつこく話しかけていたがしばらくは「まだ淡路島」という無慈悲な返答がくるのであった。

 なんとか淡路島を抜けると徳島県に入った。鳴門ジャンクションから徳島道へ入り、上板SAで昼ごはんの徳島ラーメンを食べた。こってりしている。確かこのあたりで疲れて目がしょぼしょぼしてしまい、運転を代わってもらった気がする。

 そこからしばらく四国中央部のなにもな~い風景を楽しんだ。途中より松山道に入り、桜三里PAで再びハンドルを握った。桜三里から松山まではすぐである。

 松山ICで高速を降りて市街地へ入ると、今晩の宿に車を止めることにした。ナビの通り車を進めると、意外と栄えている松山市の様子がちらちらと視界に入る。なにしろ運転に必死なもので…

 ホテルは大街道近くの小さなホテルである。道中、ラウンジやクラブがたくさん入っている雑居ビルなどを通過し、本当にここであっているのかしらんと戦々恐々と車を走らせたが、なんとか辿り着くことができた。

 

 ホテルにチェックインしたらもう17時。道後温泉の雰囲気だけでも楽しみに行こうと路面電車に乗り道後温泉駅へ向かった。乗ったのは非常にレトロな板張りの車両だったが、愛媛のゆるキャラ「みきゃん」だっけ?のラッピング車両や、新しげな車両も多数見かけた。道後温泉本館近くの土産物屋などを覗き、大混雑の道後温泉本館を外観だけ眺めた。とにかく混んでいるという前情報を聞いていたのであえて入ることはしなかった。

 近くをうろうろしていると「道後麦酒館」という店を見つけた。湯上りの一杯に!とのことだったが特に湯上りでもない私ら酒飲みは道後ビールを飲むために入店した。ビールだけでなく愛媛の地酒や料理もおいているようだった。

 道後ビールは四種類ある。ケルシュ・アルト・ヴァイツェン・スタウト、2人で四種類飲んだ。父はスタウトのもの(通称“漱石”)、私はヴァイツェン(通称“のぼさん”)が気に入った。ちなみに松山は夏目漱石の著書「坊ちゃん」の舞台なので、坊ちゃん推しだ。そしてのぼさんというのは松山出身の俳人正岡子規の幼いころのあだ名だ。

 天ぷらなども食べビールを飲んで満足した私たちは夜ご飯の目星をつけていた温泉近くの居酒屋へ向かった。不定休とのことだが休みだった。不覚…だったが宿泊地・大街道近くは繁華街で飲み屋も多い。気を取り直してそちらで店を探すこととした。

 路面電車に乗る前に「10factory」というみかんジュースバーに入った。「みかんビール」の言葉に惹かれたため…。みかんビールとみかんハイボールを飲んだ。みかんっぽいビールだった。

 

 大街道へ戻り、道中食べログで調べた「炉辺人」という飲み屋へ入った。瀬戸内海の魚介類を食べようというコンセプトで入ったが日曜日は市場が休みとのことで、まあそうだ。店内の水槽で泳ぐ鯵を活け造りにしてもらい、戻りガツオを食べた。愛媛の日本酒「石鎚」などを頂いた。鯵はしばらくしっぽがびくびくしていた。美味しかった。父が急に「ポール・マッカートニーベジタリアンで肉を食べない。お父さんには無理だ。でもフォアグラは美味しいとも思わないから食べない」といっていた。私はフォアグラも結構好きだ。申し訳ないと思う。

 

 お腹いっぱい食べて飲んだあと宿に戻り大浴場へ入った。この宿、大浴場の湯は道後温泉から引いているのだ。閑散とした大浴場で思う存分道後の湯を堪能した。一人でゆっくり浸かる温泉は最高だ。誰かと一緒も楽しいけど自分のペースで好きなだけ浸かれるのも良い。知らないおばちゃんに話しかけられて、おやすみなさいとか声を掛け合うのも結構好きだ。

 部屋に戻ると父がウイスキーを飲みかけで半落ちしていたのでアル中やべえな~と思って寝た。いやうまく寝られなくて結構つらかった。

 

 翌日朝起きるともう眠くて眠くて。宿をチェックアウトすると歩いて松山城へ向かった。松山城は山の上にあり、リフトとロープウェイが通っている。もちろん徒歩でも登れるのだが、とにかく時間のない我々はリフトを利用した。以前松山城を訪れた姉から「リフトが楽しい」と聞いていたのもある。所要時間6分ほどで上に着くのだが、不安定で安全装置もないリフトにただ揺られているというのもなかなか楽しい。上から近隣の学校のプールが見下ろせた。

 松山城は再建された城だ。江戸時代かな?あと昭和とかにも櫓とか再建して、頑張ってたけど、落雷とか放火でめっちゃ燃えて大変だったらしい。最近国宝になった城ばかり行っていたので見劣りはするものの、見ごたえのある城だった。何より天守からは瀬戸内海が一望できる。天候があまり良くなかったことが心残りだ。

 帰りはロープウェイで、と思っていたが予想以上にリフトが楽しかったのでリフトに乗って下山した。降車してすぐになぜか水琴窟があった。水琴窟っていうのは…甕に水を注いだ時の水音が綺麗でこう…楽しめるやつなんですけど、なぜかロープウェイ・リフト乗り場のところに設置してあったので折角なので甕に水を流し、耳を澄ますと鈴を転がしたようなころころ、という高くきれいな音がした。

 

 観光センターで蛇口からみかんジュースっていう定番のやつをやったあと、松山を離れることにした。何しろ時間がない。20時までにレンタカーを返さなければならない。

 しまなみ海道へ向けて出発した。今治のうねうねとした道は初心者にとってはつらいものがある。バックミラーをちらちらを見やると、後続車の倦んでいる様子が手に取るようにわかる。広い路肩を見つけては後続車をやり過ごし、息を切らしながらなんとか今治を抜けた。しかし夜眠れなかったこともありだんだん目が霞んでくる。気づくと車線をはみ出し左側の白線を踏んでいる。このままでは助手席の父親をすりつぶし殺してしまうと思い、運転を代わってもらった。即寝た。

 気づくと道の駅に停車していた。推測するに「道の駅 多々羅しまなみ公園」だと思う。多々羅大橋がよく見え、綺麗だった。なんとかの鐘を鳴らして伯方の塩ソフトを食べた。みかんとかいちじくジャムとか買った。

 ここでまた運転を代わってもらい、広島・尾道を目指した。

 突然だが私は以前ポルノグラフィティの熱狂的ファンだった。ファンクラブに入っていたし、彼らの3人時代のエッセイ本「ワイラノクロニクル」も所蔵している。彼らの出身は広島の因島だ。そういうわけで、そういうわけでもないが、私らは因島南ICを降りることにした。

 因島は特に観光するところは、ない!でも一応あおかげトンネルを通って、水軍城へ行った。因島に上陸したいという積年の夢、それも忘れかけた夢をふいに叶えることができたということで、実はとてもうれしかった。

 

 なんやかんやで尾道に到着し、これもう帰るなら山陽道入ったほうがいいよねえとぶんぶん運転し、どこか途中で目的地をレンタカー屋さんにセットしたところで、時間がめっちゃ足りないなということに気づいた。しかも…めちゃくちゃ眠かった。なので再び運転は父に代わり、しばらく寝させてもらった。こう書きだすと私はあまり運転していないのだが、実際、あまり運転していない。あと父は飛ばし屋だ。

 ずっと寝たり起きたりしていて、気づいたら神戸だった。宝塚まで渋滞しているようだった。どうもあのあたりは混むので下道から行くことにして、中国池田で降りてずんずん市内を目指した。途中で運転を代わってもらった。市内は教習でも走ったことがたくさんあるので、「一番左端の車線を走ると路駐に邪魔される」「自転車は車道の真ん中を平気で走る」という経験則に基づいてぶんぶん走ることができた。なんとか時間内にレンタカー屋に辿り着き、車を返した。

 

 父と遊べるのもこの日が最後なので、せっかくなら近所の美味しいものをと思い、人気のおでんやへ赴いた。4組ほどの待ちがあり、わたしは座って待とうと思っていたのだが、父が「隣に立ち飲み屋があるのでそこで待とう」と言い出した。最近できたのだろう、私には見覚えのない店だった。生ビールの大ジョッキを飲みながら待った。時々抜け出しておでん屋の待ちリストをチェックし、適当な所で退店した。おでん屋はめちゃくちゃおいしくて、熱燗が進んだ。父も気に入ってくれたようで良かった。「すいませえん!大根 すじ こいも こんにゃく しゅーまい 春菊!」と叫ぶと店主さんが「スーイーマーセーン アイ大根すじこいもこんにゃく シュウマイと春菊は今から入れますんでねえ少々お待ちくださぁい」と返してくださるのだ。お腹いっぱい食べて大満足だった。

 

 帰ってお風呂入ってだらだらしてたら父がコンビニで買ったウイスキーとビ―ルもどき飲んでてアル中だな~と思った。次の日なんとかかえってった。正直ちょっと寂しいけど楽しかった。大変だった。でも楽しかったの勝ち!

広告を非表示にする