人生と本

小さい頃、本が好きだった。物心ついた頃から時間も忘れて絵本に熱中し、祖母にせがんで童話を読んでもらい、気に入ったものは繰り返し読み、二宮金次郎よろしく歩きながら物語にふけり(彼は労働の傍の勤勉ということで全く話が違うのだが)、数学の授業中は教科書でなく机の下の本を捲り…今ではすっかりかつての情熱的なほどの読書家ではなくなってしまったけれど、とにかくわたしの生活に本は欠かせないものであった。
小学生の頃だったと思う。買い与えられた子供向けの本を読み尽くしてしまったわたしは、母の本棚を勝手に開けた。母も読書好きであった。育児や仕事に追われ、好きな本をゆっくり読むこともなくなったのだろう、埃をかぶった本がうず高く積まれていた。
その中から村上春樹吉本ばななを選んで読んだ。母の好みによる偏りもあるだろう。村上春樹は小学生には少し刺激が強すぎたし、難解だった。吉本ばななの綴る恋や愛についてはまだまだ無知であった。
またある日、母の本棚でこっそりと本を探っていると6冊セットの小さなペーパーバックを見つけた。薄くて軽く、今まで読んだハードカバーの本より読みやすいのではないかと考えた。
スティーブン・キングの「グリーンマイル」だった。この本との出会いはわたしにとって衝撃的だった。
ハリー・ポッターの平易で現代的な訳文に慣れていたせいか少し古臭いアメリカンな訳文には苦労したし、難しい比喩が多かった。それでもわたしはグリーンマイルの物語に引き込まれ、その薄い本を一気に読み進めてしまった。知らない時代のほこりっぽい刑務所を想像した。ミスター・ジングルスの油粒のような瞳を思い浮かべた。
この本が特殊な形式で刊行されたと知ったのはもっと後年のことだった。1ヶ月に1冊ずつ、を厳格に守り発刊されたそうだ。もしこれが発行されてすぐに読み始めていたら、続きが知りたくて何も手につかなかったに違いない。

いつからから映画を好んで見るようになった。寂しい一人暮らしの暇つぶしとしてだ。そして、プライベート・ライアンでショックを受けた。そして、主役を務めたトム・ハンクスバリー・ペッパーらがグリーンマイルの映画に出演していることを知り早速DVDを借りた。
泣いてしまった。半ば泣き叫んでしまうくらい悲しくて、こんな思いはしたくないと思うほどだった。小さい頃夢中になった物語が、映像として目の前にありありと現れたことが衝撃だったし、それは映画としても素晴らしいものだった。

映画を見ると、再び原作を読みたくなった。実家の母に聞くと、なぜか見当たらないとのことだった。何しろ実家はものが多くすぐにいろんなものがなくなってしまうのだ。そのあとわたしはしばらくそのことを忘れていた。

先月、地元の友人が遊びに来てくれた。なんとなしに古書店をふらふら見ていると、グリーンマイルの6冊セットが売られていた。悩む間もなく購入した。まだ小さかったわたしを熱狂させた物語が、今再び別の輝きを帯びてわたしの人生に現れた。そういうわけでいまわたしは、グリーンマイルに夢中である。同じ本を繰り返し読むと懐かしさや古びない感動、新たな発見が得られる。早く次の巻読みたいな…。
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